テーマの基礎知識:会社分割と事業譲渡とは?

会社分割と事業譲渡は、どちらも会社の事業を他の会社や人に譲渡する方法ですが、その手続きや法的効果に違いがあります。
それぞれの定義と特徴を理解しておきましょう。

会社分割(かいしゃぶんかつ)とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させる組織再編行為です。
会社分割には、分割する会社(A社)がそのまま存続する「吸収分割」と、分割する会社が消滅し、新たに会社を設立する「新設分割」があります。
会社分割は、会社法という法律に基づいて行われます。

事業譲渡(じぎょうじょうと)とは、会社が特定の事業に関する資産や負債、契約などを、他の会社や個人に譲り渡すことです。
事業譲渡は、会社法上の組織再編行為ではなく、個別の契約に基づいて行われます。
譲渡する資産や負債を一つ一つ特定し、譲渡契約を締結する必要があります。

ポイント:
会社分割は、包括的な権利義務の承継を伴うため、手続きが複雑になる傾向があります。
一方、事業譲渡は、譲渡する資産や負債を個別に選択できるため、柔軟な対応が可能です。

今回のケースへの直接的な回答:どちらが適切か?

今回のケースでは、事業譲渡の方が現実的である可能性が高いと考えられます。
その理由を、会社分割と事業譲渡それぞれの視点から説明します。

会社分割の場合:

  • A社が債務超過の状態であるため、会社分割を行うと、債権者(金融機関)の保護が必要となる場合があります。
  • 特に、吸収分割の場合、A社が残存会社として債務を抱え続けることになり、債権者にとってリスクが高まる可能性があります。
  • 新設分割の場合、X氏が新たに会社を設立し、A社の事業を引き継ぐことになりますが、債務の承継方法や債権者の同意など、複雑な手続きが必要になります。
  • A社の商号を存続させるという前提があるため、新設分割は選択肢から外れます。

事業譲渡の場合:

  • X氏が引き継ぐ事業を、土地、資材、営業許可(営業権)に限定できるため、負債(債務)の引き継ぎを最小限に抑えることができます。
  • 金融機関との交渉において、譲渡対価(700万円)を債務の一部弁済に充当することで、回収額を増加させることが可能です。
  • 譲渡する資産や負債を個別に選択できるため、X氏とA社の間で柔軟な合意形成が可能です。

上記を総合的に考えると、事業譲渡の方が、手続きが簡便であり、金融機関との交渉もスムーズに進められる可能性が高いと考えられます。

関係する法律や制度:事業譲渡に関わるもの

事業譲渡を行う際には、様々な法律や制度が関係してきます。
主なものを紹介します。

会社法:
事業譲渡は、会社法上の組織再編行為ではありませんが、会社法に定められた手続きに従って行われる必要があります。
具体的には、取締役会決議や株主総会の承認が必要となる場合があります。

民法:
事業譲渡は、民法の契約に関する規定に基づいて行われます。
譲渡契約の内容や、債権者への通知など、民法のルールに従う必要があります。

税法:
事業譲渡によって、譲渡所得が発生する可能性があります。
譲渡所得には、法人税や所得税が課税されます。
税務上の手続きについても、専門家と相談することが重要です。

建設業法:
建設業の許可(営業権)を譲渡する場合、建設業法に基づき、許可の承継手続きが必要となる場合があります。
X氏が新たに建設業の許可を取得する必要がある場合もあります。

その他:
契約上の権利義務の譲渡、労働契約の承継など、様々な法的問題が発生する可能性があります。

注意点:
事業譲渡を行う際には、関連する法律や制度を十分に理解し、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが重要です。

誤解されがちなポイントの整理:債務超過と譲渡

債務超過の会社が事業譲渡を行う場合、いくつかの誤解が生じやすいポイントがあります。
以下に整理します。

誤解1:債務超過の会社は事業譲渡できない?
債務超過の会社でも、事業譲渡を行うことは可能です。
ただし、債務超過の状態によっては、債権者の同意が必要となる場合や、譲渡対価が債務の弁済に充当されるなど、様々な制約が生じる可能性があります。

誤解2:事業譲渡すれば、すべての債務がなくなる?
事業譲渡によって、すべての債務がなくなるわけではありません。
事業譲渡では、譲渡する負債を個別に選択できます。
譲渡しない債務は、A社に残存することになります。
X氏がA社の債務を引き継がない場合、A社は残存債務を返済する必要があります。

誤解3:事業譲渡すれば、必ず債権者は納得する?
事業譲渡は、債権者にとって必ずしも有利な選択肢とは限りません。
譲渡対価が債務の弁済に充当される場合でも、債権者が全額を回収できるとは限りません。
債権者との丁寧な交渉と、十分な説明が必要です。

ポイント:
債務超過の会社が事業譲渡を行う場合は、債権者との関係を十分に考慮し、透明性の高い手続きを行うことが重要です。

実務的なアドバイスや具体例:事業譲渡の手順

事業譲渡を成功させるためには、以下の手順で進めることが推奨されます。

ステップ1:譲渡対象の選定と評価

  • 譲渡する資産、負債、契約などを明確にします。
  • それぞれの価値を評価し、譲渡対価を決定します。

ステップ2:譲渡契約の締結

  • X氏とA社の間で、事業譲渡契約を締結します。
  • 契約内容には、譲渡対象、譲渡対価、譲渡期日などを明記します。

ステップ3:債権者への通知と説明

  • 債権者に対し、事業譲渡の内容を通知し、説明を行います。
  • 債権者の理解と協力を得るために、誠実な対応が必要です。

ステップ4:資産の移転と手続き

  • 譲渡対象となる資産を、X氏に移転します。
  • 建設業の許可(営業権)の承継手続きなど、必要な手続きを行います。

ステップ5:譲渡代金の支払いと清算

  • X氏からA社へ、譲渡代金が支払われます。
  • A社は、譲渡代金を債務の弁済に充当し、清算手続きを行います。

具体例:
A社が、土地(時価300万円)、資材(時価100万円)、建設業の許可(営業権)をX氏に譲渡する場合、譲渡対価を700万円とします。
A社は、譲渡代金700万円を、B銀行への債務の一部弁済(400万円)と、C信金保証協会への債務の一部弁済(300万円)に充当します。
これにより、金融機関は、担保処分価額(400万円)に加えて、譲渡代金の一部を回収できることになります。

専門家に相談すべき場合とその理由

事業譲渡を行う際には、専門家への相談が不可欠です。
特に、以下のような場合には、専門家のサポートが必要となります。

弁護士:

  • 事業譲渡契約書の作成や、法的リスクの評価、債権者との交渉など、法的な問題について助言を得ることができます。
  • 債務超過の状態にある場合、倒産処理に関するアドバイスも受けられます。

税理士:

  • 譲渡所得に関する税務上のアドバイス、節税対策など、税務に関する専門的な知識を提供してくれます。
  • 事業譲渡後の税務申告もサポートしてくれます。

公認会計士・税理士:

  • 譲渡対象の資産や負債の評価、譲渡対価の算定など、会計・財務に関するアドバイスをしてくれます。

中小企業診断士:

  • 事業承継や経営戦略に関するアドバイス、事業計画の策定など、経営全般に関するサポートをしてくれます。

その他:

  • 建設業許可に関する手続きは、行政書士に相談することができます。

重要:
専門家は、それぞれの専門分野において、的確なアドバイスとサポートを提供してくれます。
複数の専門家に相談し、総合的な視点から問題解決に取り組むことが重要です。

まとめ:今回の重要ポイントのおさらい

今回のケースでは、債務超過の建設会社が、事業を譲渡する際の最適な方法について解説しました。

重要なポイント:

  • 会社分割と事業譲渡の違いを理解し、状況に応じて最適な方法を選択する。
  • 債務超過の場合、事業譲渡の方が手続きが簡便で、金融機関との交渉がスムーズに進む可能性がある。
  • 事業譲渡を行う際には、関連する法律や制度を十分に理解し、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進める。
  • 債権者との関係を重視し、透明性の高い手続きを行う。

これらのポイントを踏まえ、A社とX氏が、円滑に事業譲渡を進められることを願っています。